【レビュー】羊と鋼の森〜おすすめ!最初から最後まで引き込まれるピアノ調律師の成長秘話
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こんにちは。ぽけっとすぱいすの琴です。

最近読んだ本のレビューを書きたいと思う。(気分的に今回はである調)
宮下奈都 著書の「羊と鋼の森」。

新米ピアノ調律師の成長を綴った感動作

この小説はひょんなきっかけでピアノの調律師を目指すことになった青年のお話。

本屋にさっと寄ってなんとなく表紙と文字のフォントが好きだったこと、帯で本屋が一押ししていたこと、数ページ読んだ印象がよかったことの3点で購入した。
そもそもピアノに調律師がいることさえ知らなかった私は読んですぐに新しい情報で頭がいっぱいになった。

 

ピアノは調律師が定期的にチューニングをして音のバランスを調整しているそう。チューニングをするだけならそんなに難しいことではないのでは?と思っていたが違うらしい。

まずはラの音を基準に音階を合わすチューニング、湿度や気温、防音状況や部屋の広さなど環境にあった音の調整。そこから依頼主が求める音の響き方や明るさ、華やかさ等を出すための音探しをするそうでコンサートホールの調律師になれる人はほんの一握りだそうだ。

ピアノの中には鍵盤を叩くと音を鳴らすハンマーがある。このハンマーは羊の毛(フェルト)に覆われていていて、そのフェルトの状態や弦の状態によってもかなり音が変わってくる。そうした細かい条件を全て噛み砕いて音を変えていくそうだ。

ピアノの上手さはピアニストの技術とステージの響き方くらいだと思っていたがこんなにも調律が緻密だとは思っていなかったので驚かされた。

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主人公のひたむきなピアノへの向き合い方に心打たれる


高校の時に体育館で偶然ピアノ調律師の板鳥と出会い、その音に魅せられた主人公の外村は調律師になることを目指し奔走する。

とりわけ音楽の知識もなかったが専門学校を経て、念願の板鳥のお店で働くこととなった外村は昼夜かまわずひたすら音と向き合い続ける。

世界的に有名な調律師の板鳥と、圧倒的信頼を誇る柳、口は悪いがそれとは真逆の丁寧な調律をする秋野から見て音を聞いて技術を盗んでいく。特段やり方を教えてくれるわけではない。ひたすら見て学ぶ。技術的なことは自主的に学ぶやり方だ。

音と向き合い、依頼主と向き合って地道ながら徐々に成長していく主人公の姿は胸に迫るものがある。
やってもやっても先が見えず森の中で迷子になったかのよう。自分の道が合っているのか悩みながらも、あの時体育館で聞いた板鳥の音を頼りに光を導き出していく。

誰もが人生でぶち当たるだろう壁を、外村は壊すというより包み込んで、飲み込んでしまう。そんな真っ直ぐでやわらかい心に癒しさえ感じてしまった。

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音一つで人の心を豊かにする力がある

人に要望を的確に伝えるのは難しい。
音を明るめといっても人によって違うし本当に欲しい音を正確に伝えるのは相当な語彙力や知識がなければ厳しいそうだ。

一番心に残った場面がある。
ある依頼主のピアノは10年近く調律をしておらず音がガタガタになっていた。
依頼主からは「娘が小さい頃に弾いていた時の音に戻してほしい」という要望だった。
娘が弾いていたころにあんまり手をかけてあげることができず、娘さんは結局ピアノをやめてしまったそう。

その要望に応えるのが仕事なのだが、
ピアノ自体はとても良い物で、ちゃんと調律すればそれ以上の音を出すことができる。
結局、柳はピアノ自体の持つ音と明るさに調律した。

柳はピアノが本来持つ素晴らしい音を出したかったから明るくしたわけではなかった。
あの頃の音が欲しいんじゃなくて、あの頃の幸せな記憶の方が大事だと思ったからだ。

「あの人が欲しいのは、忠実に再現されたピアノじゃなくて、しあわせな記憶なんだ。どっちみち元の音なんてもうどこにも存在しない。だったら、あのピアノが本来持っていた音を出してやるのが正解だと僕は思う。やさしい音で鳴ったら、記憶のほうがついていくさ」

完成した後、依頼主(娘の母)が「ピアノの音が戻って、部屋の中が明るくなったみたい。」と言った。
私は泣いた。

時代とともに明るい音が好まれるようになってきた

基準音のラの音が変わってきているらしい。
日本では戦前は435ヘルツだったが、今は440ヘルツ。最近では442ヘルツにすることも多いそう。モールツァルトの時代には420ヘルツだったそうで年々明るい音が好まれるようになっている。もはや同じラではない。

一音一音丁寧にピアノの音を聴きに行きたくなる、そんな作品

ついつい小説の世界にのめり込んで気がつくと読み終わりに近づいていた。もっと読んでいたい、終わってほしくないという気持ちが募った。読み終えると心が満たされて全身が温かくなる。美しい日本語で情景も浮かべやすく、すっと心に入ってくる素敵な本だった。

読み終えると無性にピアノリサイタルに行きたくなる。そもそもピアノ楽曲が好きだったし、アニメ映画や漫画の「ピアノの森」もそうだけれど、私はピアノと森のコラボが好きなよう。もうこれは行くしかなさそうだ。

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